人気マンガ家・小山健インタビュー みんなが言えないことを笑いに変える「偏愛」の力

会社員時代に趣味で描いていたマンガがネットを中心に話題となり、糸井重里もその世界観を賞賛するマンガ家・イラストレーターの小山健。出版社に務める男女が何気なくも心にじんわり響く会話を繰り広げる『osaka.sora』、女装やナンパなど初めての経験を日記マンガにした『死ぬ前に1回やっとこう』、甘酸っぱい青春の記憶や男の本音をさらけ出した『手足をのばしてパタパタする』など、作品ごとにアプローチを変えながらも、自らの内面を大胆すぎるほどオープンにしたネタの数々は、読者の普段は言えない気持ちを代弁してくれるかのようで、クスッと笑いながらも心休まるものばかりだ。読者ゼロからスタートした彼の作家人生は、どのようにして歩まれてきたのか。マンガを描き始めてから性格まで変わったというこれまでを振り返ってもらった。

インタビュー・テキスト:田中宏 撮影:佐藤麻美 編集:康あん美

いま思うと、イラストレーターを目指すっていうのもウソだったなと。本当は印刷会社で働きたいわけでも、舞台装置を作りたいわけでもなく、やっぱりマンガなんだなって。

—小山さんは自分をさらけ出したり、体を張ったマンガも多く描かれていますけど、昔からそういうタイプだったんですか?

小山:さらけ出すようになったのは、7年前にブログでマンガを描き始めてからですね。全然ナチュラルボーンじゃないんですよ。やっているうちに、こうやったらウケるとか、こうやったらスベるみたいなことがわかってきて、身を削れば削るほどウケがよかったんです。そこからは転がり落ちるかのようにオープンになっていきましたね。

小山健
小山健

—影響を受けたマンガとかはあったんですか?

小山:小さい頃は『魔法陣グルグル』とか、『魔神英雄伝ワタル』とか、かわいくて、少年心をくすぐる絵のマンガが大好きでしたね。あと、影響を受けたという意味では、『しあわせのかたち』で知られる桜玉吉(1961年生まれ)さんはモロだと思います。日記マンガっていうスタイルもそうですし、画風やったり、芸風やったり、恥ずかしいくらいに。

—絵のタッチは昔から変わってないんですか?

小山:中学生くらいまでは、『ジョジョの奇妙な冒険』とかを見て、どうやったらここから見てる角度で描けるんやろうとか研究してたんですけど、いまはそんなの役に立たない2Dな絵になってしまって。

—どうして2Dな絵を描くように?

小山:覚えているのは、めちゃくちゃ絵のうまいイラストレーターの人の画集を見たときに、すぐ見飽きちゃって、そんなにうまくならなくていいやって思ったんです。それと、専門学校が絵本に強いところで、子供向けの絵本をたくさん読んだんですけど、こっちのほうが見飽きないなと思ったんです。

小山健
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—マンガは小さい頃から描いていたんですか?

小山:小学校低学年から中学生までは、すごい描いてました。隣の同級生を笑わせるために。ギャグマンガとか、特殊能力を持った男たちのバトルとか。ストーリーそっちのけで、バトルシーンとキスシーンばっかり描いてましたね。自分の描きたいシーンだけ。

—そのときはマンガ家になろうとか、イラストレーターになろうとかは考えてなかったんですか?

小山:マンガ家は無理そうだなと思ったんですよ。週刊連載している人のインタビューを見て、すごいガッツが必要なんだと思って。それで、イラストレーターならなんとかなるんじゃないかと思って、イラストの専門学校に行ったんです。でも、卒業しても鳴かず飛ばずで。

—小山さんは就職していた時期もあるんですよね?

小山:あったんですけど、やりたいことがあって就職したわけではなくて。そもそもイラストレーターの就職先なんて限られているんですよ。デザイン会社に入るか、アルバイトしながらプロを目指すかくらいで。僕は舞台装置を作る会社に入ったんですけど、そんなに的外れでもないんじゃないかと思って。

—ちょっとクリエイティブな要素がありそうですもんね。

小山:そうなんです。そこでコンサートや演劇の舞台を作ってました。いわゆる大道具さんですね。でも、志のない感じで入ってしまったので、結局クビになって、次は印刷会社に就職したんです。それも的外れじゃないだろうと思って。

—近からず遠からずな感じがしますね。

小山:そこでは印刷データのチェックをしていたんですけど、あまりにもクリエイティブとはかけ離れていたというか、つまらなすぎて。それで7年前にブログを開設して、マンガを描き始めたんです。いま思うと、イラストレーターを目指すっていうのもウソだったなと。本当は印刷会社で働きたいわけでもなく、舞台装置を作りたいわけでもなく、イラストレーターをやりたいわけでもなく。マンガを描き始めたら楽しくなって、やっぱりマンガなんだなって。


話題になったマンガは、みんな思ってるけど口にしないようなことを「まぁ、いいか!」って描いたやつなんですよね。

—ブログを作ったからといって、最初から見てもらえるわけではないですよね?

小山:もちろん最初は0PV(ページビュー)でした。それで、友達にブログにマンガを描いたんだみたいなことを言って、1PV。

—徐々に見てくれる人が増えていったんですか?

小山:一気にPVが増えた事件が3回くらいあって。『ラジカセ』というマンガを描いたときは、ネット上を駆け巡るというか、いわゆるバズるみたいな感じでした。それと糸井重里さんが褒めてくれたマンガがあって、そのときは『女の人の裸をはじめて見た話』だったんですけど、すごい原始的な、人間本来の欲求みたいなものを描いたんです。だいたい話題になったマンガは、みんな思ってるけど口にしないようなことを「まぁ、いいか!」って描いたやつなんですよね。

小山健

—それでだんだん自分をさらけ出すように?

小山:そうですね。素直であればあるほどいいんだっていうことがわかったので、それからは日常で女性を見ても、「きれいですね」とか言うようになって。それをオープンにしていってから、悪かったことが一度もなかったんですよ。たまに奥さんの妹夫婦に会うときに、発言が突拍子もなさすぎて、変な空気になるときがあるくらいで。

—ブログの反応を見ながら、マンガの内容も改善していった?

小山:そうですね。そんなに嫌がられないんだなって。最初は女性の手が触りたいみたいなマンガを描いて、「これ、気持ち悪いと思われないかな?」とか思ってたんですけど、いざ描いて発表したら「わかる!」みたいな。女性からのコメントも「やだー、小山さん」くらいで、そんな悪い感触じゃなかったんです。ただのスケベじじいのはずなのに。爽やかに「手が触りたい」とか言えば、大丈夫なことに気付いたんですよ。

—そう考えると、歌手とかも同じですよね。

小山:そうですよ。甘い美声で歌ってるからよしとされてますけど、「抱きしめたい」とか言われてもね。ただ、みんながみんな、よしとしてくれるわけじゃなく、ちゃんとやり方があって。その場にいる全員が思ってることっていうのが大事ですよね。 何人か男女がいて、そのなかにすごいおっぱいが大きい人がいたら、そこにいる全員が「何カップ?」と思ってるじゃないですか。チャンスポイントはそこですよ。そこで「じゃあ僕が」って手を挙げて言うんです。

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小山健

小山健

マンガ家・イラストレーター。雑誌・書籍・WEBなどでお仕事しています。

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