とんだ林蘭を徹底解剖 キレイなだけでは完結しない「違和感」を発信する注目作家

ハイブランドのファッションから、お菓子や生肉といった食べ物まで。日常に転がるそんなイメージの数々を「ベタ」な世界から引き剥がし、独特のポップな感性で、絵画やコラージュ、イラスト、映像に昇華してきたアーティストのとんだ林蘭。SNSや毎年の個展を通じて人気を拡大し、木村カエラをはじめとするミュージシャンや、有名ファッション誌からも注目される彼女は、「自分の活動では偶然の力が大きい」と語る。

実際、20代半ばまでは普通のOLだったとんだ林は、ある日を境に突然、アーティスト活動を開始。捨てられた雑誌を素材にしてコラージュを作るなど、身の回りに溢れる世界の豊かな断片を積極的に取り込み、迷うことなくアウトプットしてきた。驚くほど旺盛な、表現活動の根幹にあるものとは何なのか? その創作の、核に迫った。

インタビュー・テキスト:杉原環樹 撮影:佐藤麻美 編集:康あん美

就職しか頭になかったけど、フリーという道もあると発見した時期だったので、自分もやりたくなってしまったんです。

—とんだ林さんは、いま活動を始めてどのくらいになりますか?

とんだ林:25歳のときに始めて、今年29歳なので、もう少しで4年です。

—すると、もうアーティスト活動にはだいぶ慣れました?

とんだ林:いえ……お仕事がけっこう多岐にわたるので、いまも毎回新鮮な気持ちで(笑)。だけど、ここ3年間は毎年、そのときの集大成として、中目黒の「VOILLD」というギャラリーで個展をやらせていただいていて、それはだいぶ肩の力が抜けてきましたね。

とんだ林蘭
とんだ林蘭

—4年でここまで仕事の幅を広げるのもすごいですが、そもそも活動を始めた経緯が面白いですね。通っていた服屋のお客さんにかけられた一言がきっかけだったとか。

とんだ林:そうなんです。昔、服の販売員をやっていたんですけど、何かもっと面白いことをやりたいという漠然とした思いがあって、とりあえず仕事を辞め、事務の仕事に転職しました。

それで暇なので、よく行っていた浅草の服屋さんで落書きをして過ごしていたんです。そんなある日、常連さんの一人に「何かやりたいんだけど何もできなくて」と話したら、「イラストレーターになれば?」と言われて。最初は「無理!」と感じたんですけど、だんだんなりたい気持ちが芽生えてきて、そこから気合が入ったんです。

—一言で、そんなに火が点くものですか。

とんだ林:たぶんタイミングが良かったんです。以前から自分は絵が好きなんだなと感じていて、「なれたらすごくない?」と自然に思えた。それと、その浅草の服屋の常連に、いわゆる「サラリーマン」ではない人が多かったんです。

名付け親のレキシの池ちゃん(池田貴史)もそうなんですけど、学生の頃は、そういう働き方はなかなか想像できないじゃないですか。就職しか頭になかったけど、フリーという道もあると発見した時期だったので、自分もやりたくなってしまったんです。

—とはいえ、アーティストもイラストレーターも、どうやってなればいいのかわからない職業の代表格ですよね。最初にどんなアクションを起こしたんですか?

とんだ林:最初はそのお店の人が、「うちで個展をやりなよ」と言ってくれました。それまでは白黒のドローイングだけだったんですけど、そこで絵画も始めて。正直、あまり自分から行動を起こす方じゃないんです。当時は絵の具を買う場所も知らない状態で、お約束の新宿の世界堂に行くことから始めました(笑)。

とんだ林蘭
初期のドローイング作品

踏みとどまってしまって、守りに入ることだけはしたくない、と思っていますね。

とんだ林:その後、「VOILLD」で個展をやらせてもらったのですが、もちろんそれで仕事が増えたわけでもなく、毎日、ひたすら一人で制作する日々でした。そしたら、個展の何ヶ月後かのある日に、木村カエラさんと東京スカパラダイスオーケストラのグッズのお仕事が、突然同時に舞い込んできたんです。

—すごいシンデレラストーリー(笑)。

とんだ林:当時からInstagramに作品をアップしていたのですが、それをたまたまカエラさんが見つけてくれたんです。そこから徐々に、お仕事をもらえるようになりました。

とんだ林蘭
コラージュの作品

—いまとんだ林さんの代名詞とも言えるコラージュは、どういったきっかけで始めたんですか?

とんだ林:それも偶然が大きいですね。当時、映像作家のヤン・シュヴァンクマイエルのアニメを見て、自分もコラージュがしたいと思っていたんです。そしたら知り合いの美容室が移転することになり、コラージュの素材になりそうないらない雑誌が大量に手に入ったんですよね。それでやり始めたらすごく面白くて。

—なるほど。

とんだ林:イチから作るのではなくて、素材を動かせばどんどん作れるのが飽きっぽい自分に向いていた。いまも最初に全体像を想像することはなくて、本当に「無」から始めるんですけど(笑)、ふとしたときに良いものが生まれるのが楽しいんですよね。

—雑誌のゴミも、周囲の人脈もそうですが、自分の身の回りにあるものの面白さをうまく見つけられたのが大きいんですね。普通、見過ごしてしまうじゃないですか。

とんだ林:「いまから考えれば」ですが、たしかにそうですね。アーティストも昔から目指していたわけじゃないし、コラージュの作品も含めて、偶然の産物をずっと感じているというか。「チャンスがあったらとりあえずやろう」「とりあえず毎日、手は動かそう」という気持ちで挑戦したり、制作したりしてきたのが良かったのかなと思います。

—いい意味で完璧主義じゃないのかもしれないですね。

とんだ林:そう思います。自分や素材にどんな面白さが眠っているのか、作るうちにわかることもあるし、どんどんやってみないと事前にはわからないものだと思うんです。踏みとどまってしまって、守りに入ることだけはしたくない、と思っていますね。

ARTIST INFORMATION

とんだ林蘭

とんだ林蘭

1987年生まれ、東京を拠点に活動。コラージュ、イラスト、ぺインティングを中心に幅広い手法を用いて作品を制作する。猟奇的で可愛らしい刺激的なビジュアルは、幅広い層のファンを持つとともに、名付け親である池田貴史(レキシ)をはじめ、音楽アーティストやファッションブランドからも高く評価されている。

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