新世代のソウルシンガー 伊集院幸希インタビュー

日本ヒップホップ界屈指のリリシストたちを迎えたセカンドアルバムが完成

インタビュー・テキスト:タナカヒロシ(2014/4/23)

古き良き音楽に影響を受けたという形容は、時に安っぽく聞こえてしまうものだが、伊集院幸希ほど「温故知新」という言葉がふさわしいアーティストも稀有だろう。1960~70年代のソウルミュージックをベースとしながらも、昭和を彩った作詞家たちを敬愛し、渋谷系とも接点を持つなど、時代もジャンルも超越して生み出された前作『憐情のメロディ』は、2012年の『ミュージック・マガジン』誌の年間ベストアルバムで7位に選出。そしてこのたびリリースされる1年半ぶりのアルバム『月曜日と金曜日』では、RUMI、B.I.G. JOE、Meiso、HAIIRO DE ROSSI、KEN THE 390など、全10曲中9曲で日本ヒップホップ界屈指のリリシストたちを迎えるという大胆な挑戦をやってのけた。一体、彼女はどのような価値観で音楽に向き合っているのか。過去の音楽遍歴から今作の制作についてまで話を振ると、意外なまでに暗い影を滲ませつつ、音楽に対する強い気持ちを語ってくれた。

ブラックミュージックを好きになって、古い音楽を探して聴くようになり、自分も歌い手になれたらいいなと思うようになりました。

— まずはこれまでの経歴からお訊きしていきたいんですけど、はじめに音楽に興味を持ったのは?

伊集院:最初は中学2年くらいで、姉の影響で洋楽を聴き始めたんですけど、一番針が触れたのがマライア・キャリーだったんです。それからブラックミュージックを好きになって、古い音楽を探して聴くようになり、自分も歌い手になれたらいいなと思うようになりました。

“伊集院幸希”
伊集院幸希

— 中高生とかなら、マライアの次はブリトニー・スピアーズとか、新しくてポップな方向に行く人が多いと思うんですけど、そっちには興味を惹かれなかったんですか?

伊集院:古いものを自然と好むようになっていったというか。CDについていたライナーノートを読んで、ジャクソン5やモータウンを知るようになったんですけど、聴いていくうちにこういう音楽が好きなんだろうなって。

— 古い音楽が好きだと、学校の友達と話が合わないとか、そういうのはなかったんですか?

伊集院:それが、友達はあまりいなくて……。人付き合いが苦手なので……。

— そうなんですか! 意外でした。では学生時代は音楽に救われていた感じだったんですか?

伊集院:そうですね。音楽のことしか考えなかったですし、高校を卒業したら絶対に音楽をやろうと思っていました。それで、出身は熊本なんですけど、福岡に住んで音楽活動を始めるようになって。

— 東京には何がきっかけで出てきたんですか?

伊集院:東京に出てきたのはデビューした後なんです。2012年に『憐情のメロディ』をリリースするときに、プロモーションやライブもちゃんとやっていきたいと思って、そこで決心をして東京に来ました。

安井かずみさんは、サバサバして、服装も生き方もかっこいいんですけど、簡単に言うと影があるんです。普段から何か悩んでいるから、こういう表現になるんだなと思うところがたくさんあって。

— 伊集院さんは敬愛する人物に岩谷時子さんや、安井かずみさんといった昭和の作詞家の名前を挙げられていますが、どういった部分に惹かれたのでしょうか?

伊集院:安井かずみさんの作品を知ったときに、「こういうふうに感じている人がいるんだ」ってすごく共感したんですよ。共感っていう言葉では軽いくらいで、感銘を受けたというか。

— 「こういうふうに感じている」っていうのは?

伊集院:私がイメージする安井かずみさんは、サバサバして、服装も生き方もかっこいいんですけど、影があるというか。普段から何か悩んでいるから、こういう表現になるんだなと思うところがたくさんあって。本当は気持ちのたくさん動く人というか、繊細な人というか。

“伊集院幸希”

— 岩谷時子さんや安井かずみさんに興味を持ったきっかけは?

伊集院:曲を作りはじめた頃は記号みたいに英語を並べた歌しか作っていなかったんですけど、「日本で自分の音楽をやっていくんだったら、英語をしゃべれない人が英語の曲を作ってても意味ないよ」といったアドバイスを受けて、日本語で歌詞を書き始めたんです。でも、それまで日本語の歌詞を意識して音楽を聴いたことがなかったので、何を書いたらいいかまったくわからなくて。それで、いろいろ教えていただくなかで、岩谷時子さんや安井かずみさんを知ったんです。それで、日本にもこういう音楽があったんだということを知って、私もこういう詞を書いていきたいなと思ったんです。でも、やっぱり私がやりたいのはソウルなんです。もちろん歌謡曲にもいい歌はたくさんあるんですけど、影響を受けたのは言葉のほうですね。

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伊集院幸希(いじゅういん ゆき)

伊集院幸希(いじゅういん ゆき)

2011年ミニ・アルバム『GIMME BACK MY SOUL~あたしの魂(ソウル)~』でデビュー。翌2012年のファースト・アルバム『憐情のメロディ~THIS IS MY STORY~』は各所で高い評価を得た。セカンド・アルバム『月曜日と金曜日 Sugar Hi Junnie』では全曲で日本語HIP HOPアーティストと共演。トラック制作だけでなくコーラス・アレンジは全曲を手がけ、前作で示したレトロ・ヴィンテージ・ソウルは高度に進化して新たな世界を拓いた。伊集院幸希の大きな特徴は作詞作曲と歌唱のすべてを自らがこなすことである。自在性とヴァリエーションに満ちた旋律を伴う、深いメッセージが込められた歌詞は21世紀のリアルな現実や心象風景が独自の言葉で 綴られる。2014年は自身のバンド『Sugar Hi Davis』を率いて意欲的なライヴ活動が期待される。熊本市出身。ソウル・ミュージックと岩谷時子と安井かずみを敬愛する。女性。

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