石橋英子インタビュー「世界を決定づける音」

自分の愛する人とか好きな人のために、祈るってことでしか曲を作れない。

— 石橋さんは、ご自身の内なるものにしっかり対峙して曲作りをされている印象があります。

石橋:自分の中っていうのは、探し続けてなきゃいけないと思うんですよね。自分の中に輝きだったりとか、何がしたいのか、どういうことを表したいのか、なぜやるのか。それに対峙してないといけない。もちろん外に行けば楽しいこともいっぱいあるんですけど、でもそれは限りがあるっていうか。

— 内面を充実させるために、インプットもたくさんされているのでは?

石橋:そうですね、映画を観たり、後は時々、人とお酒を飲んで。やっぱり毎日1人でいると、気が狂っちゃいますから(笑)。バカな話をしてバランスを取ってますね。下ネタも大事です。

— 本作には「映画のサントラのようだ」という評判もありますが、作るときにそういった部分は意識されましたか?

石橋英子

石橋:サントラは特に意識してないですね。でも、結果そういう風になったのは良かったなと思います。基本的に私が、音楽よりも映画からの方が影響を受けているかもしれないので、音楽から映像みたいなものが浮かんでくるのは、普通なのかなぁって気もしますね。

— ちなみに最近はどんな映画が印象に残ってますか?

石橋:ギリシャの『籠の中の乙女』がすっごく良かったですね。おかしいシーンがいっぱいあって、女の人のアソコの部分を「キーボード」って言ったりとか(笑)。脚本も素晴らしかったですけど、お父さんが子供のたちと外の世界を遮断して、なんとか取り繕おうとしてる感じはどこにでもある話っていうか、日本もそういうところあると思うし、人間の愚かさがよく表されていたと思います。

— 映画の印象が、音楽にどういう風に影響していると感じますか?

石橋:音楽作品を作るときも、C、F、G……、みたいな曲で深いもの作れたらいいんですけど、私は自分でそういう曲は作れないと思ってるので、どこか陰があって悲観的な感じになっちゃうし、それは仕方ない。私という人間の性というか、そういうしょうがないところが、好きな映画と響き合ってるところはあるかもしれないですね。

— 特定の映画作家に強いリスペクトがあったりするのでしょうか?

石橋:あります。例えば、ヴェルナー・ヘルツォーク、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、ラース・フォン・トリアー、ジョン・カサヴェテス、アルフレッド・ヒッチコックが大好きですね。映像に映ってない部分がすごく気になる感じとか、映像の向こう側のものを表したいって気持ちに共感します。

— 「言葉にできないものを表す」ということが石橋さんの曲作りのキーワードですよね。

石橋:感情だったら言葉にもたくさん変換されているけど、自分が表したいのは感情とかじゃなくて、ある種の世界の捉え方だったりとか、原体験、パッションだから、言葉にするのはすごく難しい。それを言葉にしてる人たちをすごく素晴らしいと思いますけど、それをできないところを音楽にしてるかなと思います。

— 「世界の捉え方」って言葉はすごくしっくりきました。ご自身の世界の捉え方を、好きな人に聴いてほしいっていう感覚で音楽を作っている?

石橋:そうかもしれないですね。最近すごく思うんですけど、ライブをやっていて、ちゃんと聴いてくれている方がいると、私もその雰囲気を感じ取って、そういう方たちに向けて演奏をして、そこで見えないやりとりが生まれるってことがある。それがいいなあって思うんです。

— それはお客さんにとってもすごく幸せなことですね。どんなときにちゃんと伝わってるって感じることができるんですか?

石橋:やっぱり演奏してるときなんですよね。今はなんでもインターネットとかで見られますよね。書き込みをしていただけるのは嬉しいんですけど、ある意味それは幻というか、雲みたいなものっていうか。そうじゃなくて、もっとそこにいる人たちの空気感みたいなものとか、顔とか、ふとしたときにそういうのを感じることができますよね。言葉じゃなく。

— 例えば、あらゆる層に親しみやすいタッチに見える作風であっても、「自分が好きな人にだけ本当にわかって欲しい」と言っている作家さんもいたりして、それはひとつの素敵な価値観だと思います。

石橋:ものを作るときの出発点って、どんな人にとってもすごく個人的なものだったりすると思うんですよね。でも、個人的なものでしか曲を作れないことに限界を感じたりもします。自分が見えてなかったり知らなかったりする世界って、無限に広がってて、そこの狭間とか距離を埋めるために作ってる感じですね。自分の愛する人とか好きな人のために、祈るってことでしか曲を作れないってことが前提にあって、でも見えない世界はあるってこと、その狭間に曲を作り続けるパッションが発生してくるんだと思います。

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石橋英子

石橋英子

茂原市出身の音楽家。いくつかのバンドで活動後、映画音楽の制作をきっかけとして数年前よりソロとしての作品を作り始める。その後、5枚のソロアルバムをリリース。ピアノをメインとしながらドラム、フルート、ヴィブラフォン等も演奏するマルチプレイヤー。シンガーソングライターであり、セッションプレイヤー、プロデューサーと、石橋英子の肩書きでジャンルやフィールドを越え、漂いながら活動中。最近では七尾旅人、Phew、タテタカコ、長谷川健一、前野健太、トンチの作品に参加。また、ソロライブと共に、バンド「石橋英子withもう死んだ人たち(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子)」としても活発にライブを行う。

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