サウンドデザインが作る新しい世界 森永泰弘インタビュー

東南アジアの音楽がすごく面白くて、それこそ高校生でケージを知ったような、「こんなの聴いたことない!」っていう感覚をひさびさに味わって。

— 高校卒業後は、オーストラリアの大学に海外留学をされていたそうですが、どんな勉強をされたんですか?

森永:サウンドデザインです。いわゆるコンピューターを使った音楽制作以外にも、視覚芸術に対する音のあり方などを教えてる学校でした。だから自分の経験を活かして、ダンスなどの舞台表現と、好きだった映画、その2つの音楽を専門的に勉強しました。

— もう少し具体的にいうと、どういったことを学ぶんでしょうか?

森永:抽象的な身体表現であるコンテンポラリーダンスに、具体的な生活の音を当てはめて踊るっていうことをしたり、映像に対して音を加えることで、全然違う見え方、聴き方ができるっていうことを勉強していました。

森永泰弘

— そして、帰国後は東京藝術大学大学院映像研究科の第一期生として入学されたと。

森永:藝大に入ってからは、専門を映画に絞りました。映像と音、スクリーンの中と外の関係、台詞・音楽・効果音の関係性など実践を通じて研究していました。その中でも、文化庁から予算を取ってきて開催したシンポジウムでミシェル・シオンさん(映画理論家 / ミュージックコンクレート作曲家)に出会えたことは、すごく刺激を受けました。

— 博士課程にも進まれたんですよね。

森永:はい。その頃から海外の映画制作を手伝うようになってきて、東南アジアの仲間ができていったんです。もちろん、中にはあまりよく知らない国の映画作品も頼まれましたけど、そういう国の人から教えてもらった地域の音楽や文化がすごく面白かったりして、それこそ高校生でケージを知ったような、「こんなの聴いたことない!」っていう感覚をひさびさに味わって。それから、フィールドレコーディングで環境音やその土地に根付いた伝統音楽、現地の音楽家の作品を録音したり、それをベースに自分の作品を制作するようになっていったんです。

サウンドデザインって、音を使って新しい世界を作ることなんですよ。

— では、サウンドデザインのお話をもう少し詳しく教えていただきたいので、「視覚芸術に対する音のあり方」について、森永さんの基本的なスタンスを教えてください。

森永:まず僕が一番大事にしていることは、視覚芸術に対する音っていうのは、一般的に音と呼ばれているものとは、別言語で話されるべきだということです。今はそれがごっちゃになってしまっているんですけど、映画やダンスの音っていうのは、視聴覚の問題として、別に捉えるべきだっていうコンセプトでいなければならないということです。

森永泰弘

— その違いを説明していただけますか?

森永:例えば、映画の中で人と人が重なると、どちらかが隠れてしまいますよね。でも音って、音と音が重なるとミックスされて、違う音になる。物語での音のあり方もそうだと思います。音として聴こえるものが、視覚情報が追加されることで、その文脈が全くことなるものとして表象されるわけですよね。

— はい。

森永:音として犬の鳴き声が聴こえると、それは犬の鳴き声でしかありません。しかし、視覚情報が追加されることで、その犬が柴犬なのかダックスフンドなのかがわかってきますよね。音源が見えるか否かという問題です。さらには、音の視点というのも考えなければなりません。音を聴いていれば、それだけですが、そこにスクリーンや視覚的な情報物が加わると、その音が何処から聴こえてくるのか、ということも重要になってきます。遠近感を表すのも、音の話だったらボリュームの大小になるし、映像とか視覚芸術だったら、遠近の問題になる。そういう映像表現、視覚芸術だからできる視聴覚の関係性っていうのがサウンドデザインであり、そういうところを掘り下げて作品を作っています。

森永泰弘

— 実際の作品では、その考えがどう生かされているのでしょうか?

森永:自分が作ってきた音は、「何を聴かせるか」っていうような作り方ではなくて、むしろそこにいろんな音があって、お客さんにどの音を聴くかをゆだねちゃうっていう作り方なんです。日常生活でも、例えば同じ場所にいる人でも、実は違う音を聴いてたりするじゃないですか?

— 無意識に音を選んで聴いてるわけですよね。

森永:無意識というわけではないんですが、脳とか神経はそれをきちんと聴き分ける機能がありますよね。ただ僕は作り手であり、作品を通じた世界観を音で表現してるわけだから、僕なりの解釈、理屈、表現で、「この中のどういう音を聴いてください」っていう提示をしています。

— 現実と類似していながらも、あくまで作品としてどう提示するかが重要だと。

森永:サウンドデザインってそこだと思ってて、音を使って新しい世界を作ることなんですよ。録音をするときも、ミックスや編集をするときも、常にそれを意識してやってます。

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森永泰弘(もりなが やすひろ)

森永泰弘(もりなが やすひろ)

東京芸術大学大学院映像研究科に在学中から『カンヌ国際映画祭』『ヴェネチア・ビエンナーレ(美術部門)』、『ヴェネチア国際映画祭(短編部門)』のイベントでスペシャルライブを行うなど、国際的な注目を集める。映画や舞台芸術、メディアアート等の領域でサウンドデザイナーとして活動しつつ、南イタリアや東南アジアを中心に少数民族の音楽や環境音をフィールドレコーディングした作品を制作している。園子温監督『恋の罪』では、音楽監督を務めた。

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