サウンドデザインが作る新しい世界 森永泰弘インタビュー

気にしてるのは時間の中での音のあり方ですね。「時間的な音のあり方で空間を扱う」っていうのが大きいかもしれません。

— では、実際の作品についてお伺いしながら、サウンドデザインの面白味をさらに探っていこうと思うのですが、2008年に公開されたマレーシア映画の『BLOCK B』は、ベルリン国際映画祭などで上映され、ミシェル・シオンさんからも絶賛された作品でしたよね。あの作品で森永さんが表現したかったのは、どんなことだったのでしょう?

『BLOCK B』作品画像
『BLOCK B』作品画像

森永:あれはクアラルンプールにあるアパートの中で生活してる実際の人間を映して、あとで台詞を入れて、あたかもドラマ仕立てにしてるんですね。実際に撮影をしてるのはBLOCK Aからで、AとBはすごく離れてるから、ズームのレンズを使って撮ってるんですけど、音はカメラのあるAからじゃ録れないですよね。なので、音は全部作り直してるんです。人の歩く音から、生活音から。でも、やっぱりそれだとカメラの視点でしかないわけですよ。そこには集合団地に住む他の人たちの、無数の生活音があるわけだから、その人たちの生活も、音が作る新たな視点として、ちゃんと表現すべきだと思って。

— カメラの視点だけではない、見てる人が音を選べるようにするっていうのは、「気づき」を与える作業だとも言えそうですね。

森永:もちろん、そうですね。「これはこうなんだ」って言ってしまうのは、僕はあんまり好きじゃないので。ただ、「気づきを与える」ってテクニック的にはすごく難しくて、その音を大きくすればいいわけではないんですよね。視覚との関係性、全体の中での音の位置づけっていうのを常に考えながらやってますね。

— では、森永さんの中で、「この作品は自分の表現したかったことが上手くできた」という手応えのあった映像作品を挙げていただけますか?

森永:シンガポールの作家のホー・ツーニェンさんとのコラボレーションは、毎回僕が考えてなかったことを考えさせられるので、彼との作品はいつも面白いし手応えは感じています。イタリアの画家・カラヴァッジオの作品を、現代のシンガポールに照らし合わせて作った『EARTH』っていう無声映画があるんですけど、それは45分の中編映画で、1ショットで作られてるんですね。その歴史あるものを現代に置き換えて作った無声映画に対して、「音を作ってくれ」って言われたんです。

『EARTH』作品画像
『EARTH』作品画像

— おお、それはすごく難しいお題ですね。

森永:ここで僕がやったことは、これまでの映画史の中で、僕が面白いと思った音やシーンを切り抜いて、自分なりの「音から見る映画の歴史」を作ったんです。あれはベネチア国際映画祭でコンサートもやったので、思い出としても大きいですね。

— ホー・ツーニェンさんとは、映像作品以外でもコラボレーションされてますよね。

森永:『The Cloud of Unknowing』っていう、『ベネチア・ビエンナーレ』に出展したインスタレーションも思い出深いです。それは映画的な手法を使ったインスタレーションなんですけど、通常の映画の音響システムの場合、サブウーファーが下についてますけど、それを天井に持って行って、普通とは違った音響効果を作り出した作品です。最後にスクリーンの後ろから煙がでてくる仕掛けもあり、面白かったです。内容としては、同じ建物に住んでる別々の人たちが、ある1人の人間に影響され合うみたいな作品で、あれは技術的にも、理屈的にも、「次のレベルに行けたな」って思えた作品でした。

『The Cloud of Unknowing』作品画像
『The Cloud of Unknowing』作品画像

— ある種の空間芸術的な意味合いもあると言っていいのでしょうか?

森永:そうですね。でも僕は空間のみの問題とは思ってなくて、むしろ時間の方が重要だと思ってるんです。これはシオンさんからもよく言われたんですけど、「宇宙に行ったら音ないじゃん」っていう。空間論的な音の考え方ももちろん作品には反映されるけど、気にしてるのは時間の中での音のあり方ですね。「時間的な音のあり方で空間を扱う」っていうのが大きいかもしれません。

— では、映画とはまた異なる、ダンスに対する音はどんなことをお考えですか?

森永:映画で出てきた問題点をダンスに使ったり、その逆もありますね。映画の音として使うような具体的な音、生活の音っていうのは、ダンスだとあまり使われないじゃないですか? でも、「抽象的な人間の動きに、具体的な音をつけるとどうなんだろう?」みたいなクエスチョンを、身体表現にぶち当ててみたりします。

— デジタル技術が進歩する一方で、「身体性」の魅力っていうのは、今すごく重要なキーワードになってると思うんですね。森永さんはご自身がダンスをやっていらっしゃいましたし、やっぱりそこに対する意識は大きいのではないかと思うのですが。

森永:ダンスをやっていたからというよりも、音を扱って作品を作っていても、結局僕は誰と対話してるかって、人間なんですよ。人間同士のコミュニケーションを成立させるために、身体性とか肉体性っていうのは、ものすごく重要なキーワードだと思いますね。

BRAND INFORMATION

森永泰弘(もりなが やすひろ)

森永泰弘(もりなが やすひろ)

東京芸術大学大学院映像研究科に在学中から『カンヌ国際映画祭』『ヴェネチア・ビエンナーレ(美術部門)』、『ヴェネチア国際映画祭(短編部門)』のイベントでスペシャルライブを行うなど、国際的な注目を集める。映画や舞台芸術、メディアアート等の領域でサウンドデザイナーとして活動しつつ、南イタリアや東南アジアを中心に少数民族の音楽や環境音をフィールドレコーディングした作品を制作している。園子温監督『恋の罪』では、音楽監督を務めた。

OTHER FEATURES