ボカロ界が輩出した稀代の音楽家 sasakure.UKインタビュー
インタビュー・テキスト:柴那典 撮影:柏井万作(2013/5/29)
欧米発のグローバルなロックやポップミュージックのシーンと比べて、今現在の日本の音楽シーンは、明らかに独自の進化を遂げている。それを最も如実に感じるのが、ボーカロイド周辺のクリエイター達の作品だ。せわしないメロディがクルクルと踊り、情報量を詰め込んだサウンドが次々と展開する。そんなカラフルで精巧なポップが、日夜生まれている。ニコニコ動画で、それが拡散され、消費されている。そういう状況の中で独自の存在感を放っているボカロPが、sasakure.UKだ。
チップチューンに通じるキュートな電子音と変則的な曲展開、SF的な世界観を持ち味とする彼。昨年には土岐麻子などの女性シンガーをフィーチャーしたアルバム『幻実アイソーポス』をリリース、技巧派バンド「有形ランペイジ」を結成してボーカロイド楽曲の生演奏にチャレンジするなど、活動の幅を広げてきた。
再びボーカロイドを全面的にフィーチャーした3枚目のアルバム『トンデモ未来空奏図』を完成させた彼。アルバムのテーマでもある「未来」をキーワードに、彼のクリエイティビティの秘密に迫った。
とにかく、面白い作品、変な作品を作りたい。
— アルバム『トンデモ未来空奏図』についてなんですが、まず初回限定盤のパッケージがすごいですね。ちゃんと書籍の形になっているという。
sasakure.UK:はい。買った人が手にとった時に満足してもらえるようにしたかったんです。

— もともとsasakure.UKさんは物語性を持ったものとして曲を作っているわけですよね。だから、こういう形にするのは自然な発想だったのではないかと思うんですけど。
sasakure.UK:そうですね。物語性に影響されながら作っているので。今回、本のサイズにしたり、ミニ漫画をつけたりしたのも、そういうところから着想を得たところはあります。
— そして、その物語性も「未来」がキーワードの、SF的な世界観になっている。そのインスピレーション源はどういうところにあったんでしょう?
sasakure.UK:僕がボーカロイドを初めて触った時かもしれないですね。ボーカロイドって、すごくSF性を持ってる存在だなと思って。そこでSFを題材にした作品を作りたいと思った。ボーカロイドの存在は、たぶん自分の中で重要な要素になってるんじゃないかなって思います。

— じゃあ、改めての話ではありますけど、そもそもボーカロイドを初めて使った時の印象ってどんな感じでした?
sasakure.UK:やっぱり歌声を初めて聴いた時には、なんていうか、不思議な気分になりました。人の声だけど人ではないという、それがすごく面白かったし、感動して。そこにインスピレーションを受けてますね。だから、ボーカロイドの持つポテンシャルを最大限に引き出す作品を作りたいと思った。それが、自分がボーカロイドを始めた理由だし、今も続けてる理由になってるんじゃないかなと思います。
— 今回のアルバムでも「それぞれの時代を生きる人々が思い描く、それぞれの未来観」というのがコンセプトになっている。それはどういう発想だったんでしょう?
sasakure.UK:セカンドアルバムの『幻実アイソーポス』は、「人間とボーカロイドとの共存」というテーマで作ったんです。で、その後に有形ランペイジというバンドもプロデュースして。そういう活動を経て、もう一度ボーカロイドと向き合った時に、今度はどういうコンセプトで作品を作ろうか考えるわけですけど、そこで出てきたのが、やっぱり「未来」だったんですよ。なので、それを大きくフィーチャーする形でアルバムを構想していきました。
— 有形ランペイジはボーカロイド楽曲をバンドの生演奏で表現するというバンドでしたけれども。あれはどういう風にして始まったものだったんですか?
sasakure.UK:あれは、また別次元で面白いことをしてみたかったんです。僕は作品を作る時に、ボーカロイドとか、人間だとか、インストだとか、そういうカテゴリーで判断していないんですよ。とにかく面白い作品を作りたい(笑)。バンド活動も、前のアルバムもそうだったんです。で、今回は、そこで得た技術やテクニックをもう一度ボーカロイドのほうにコンバートしてきたような作品ですね。
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