自分でメロディーを作れる、紙巻きオルゴールの世界 trois(paper tunes)インタビュー
インタビュー・テキスト:栗本千尋 撮影:田中由起子(2013/2/27)
そこにあるだけで、心が踊るもの。「trois」(トワ)のオルゴールは、まさにそんな存在感を放つプロダクトです。
広く一般に知られるオルゴールは、ピンのついたシリンダーを回転させ、音階の異なる櫛歯をはじいて音を出すタイプ。つまり、1つのオルゴールから鳴らせるメロディーは1種類だけです。一方で「trois」の紙巻きオルゴールは、穴の空いた紙のシートを本体に通すことで音が出るため、楽譜を差し替えれば何通りものメロディーを演奏することができるのです。そういった特性を活かしてビジュアルと音を組み合わせたプロダクト「trois」を生み出したのが杉山三(すぎやまさん)さん。アートではなくプロダクトを選択し、「ただの杉山さんでいたい」というユニークなネーミングを持つ杉山さんに、「trois」の活動に秘められたものづくりへの真摯な思いをうかがってみました。
紙巻きオルゴールは、「みんながクリエイターになれる」。
— 紙巻きオルゴールを初めて見たのですが、どういうものなのですか?
杉山:紙でできたシートの穴に、本体のピンが反応することで音が出ます。紙巻きオルゴール自体は昔からあるものなのですが、シートが紙なので、そこに絵を描けば「音と絵を同時に成立させることができる」と気づき、魅力を感じました。
— 絵はご自分で描かれているのですか?
杉山:そうです。初めは、自分で描いた絵に雰囲気の合った曲を合わせる、楽譜作りからスタートしました。僕はお札の図柄フェチだったり(笑)、ビンテージのはがきが好きなので、そうした古いものを参考に描いたりしてます。アートワークには少しこだわってますね。
— なぜ古いものが好きなんでしょう?
杉山:古いものを見ると「懐かしい」と感じますよね。「懐かしい」感じは「安心」と近いものがあると思うんです。
— 一方で、イベントやワークショップなどの活動も行っていますよね。
杉山:「みんながクリエイターになれる」というのが「trois」の特徴なんです。紙巻きオルゴールは、誰もが自分で穴を空けて音とビジュアルを作ることができるというアノニマスなデザインなので、穴で文字を型取って「HAPPY BIRTHDAY」など好きなメッセージを入れることができるんですよ。

— どんな想いを込めて、「trois」という名前にしたのでしょうか?
杉山:「Take Relief, Or Incentive Spectacles」の頭文字で、「安心と好奇心を満たす体験をどうぞ」という意味です。このオルゴールの音色って、聴いていて落ち着くけど、同時に紙からメロディーが鳴るという点で好奇心を刺激できるなと。「安心と好奇心」のように、違う種類のものを衝突させたときに生まれる、閃光のような景色を追い求めたいという気持ちがありますね。
— 確かに、オルゴールの音色って改めて聴くとほっとしますね……。
杉山:それと、永遠(とわ)という意味もあるんです。人生は有限だけど、素晴らしいことに出会ったときには「永遠」を感じることができると思っていて。「trois」でそんな瞬間を演出できたら……という願いが込められてます。

— そもそも杉山さんが紙巻きオルゴールに出会ったきっかけは何だったのでしょう?
杉山:2009年の冬にネットで見つけて、当時気になってた女の子へのクリスマスプレゼントに購入したのが始まりでした。ところが、業者だと勘違いされてしまったのか、50個届いちゃったんですよね。しかも、楽譜を手作りして渡そうとしていた子とは、険悪になってしまい渡せずじまい……。手元に残ったのは、紙巻きオルゴールの在庫50個でした(笑)。
— か、悲しい話ですね……。第一印象で、「trois」はプレゼントにも最適だと感じたのですが、そもそもプレゼントとして誕生したものだったんですね!
杉山:考えてみれば、そうですね。「口で言うのは恥ずかしいけど、こういう形でメッセージを送るなら」と言って、プロポーズに使ってくれた人もいました。
— それはすごい! 他人の恋を成就させるというのも皮肉な話ですが……(笑)。
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paper tunes
2016年より、ブランド名を「trois」から「paper tunes」に変更した。